そんなマノアを歌うフラソングに共通していることがあります。それは、マノアを舞台にした虹姫の伝説がモチーフになっていること。
マノアの虹姫伝説を解説します。
3つのキーワード
マノアを歌うハワイアン・ソングの歌詞に出てくるキーワードといえば、虹を意味する「アーヌエヌエ」、雨の名前「トゥアヒネ」、そして虹姫伝説の主人公の名前「カハラオプナ」。
なぜマノアの谷に虹は出るのか?
なぜマノアは美しい森を作る雨と虹に恵まれているのか?
その理由付けとなる伝説が、カラカウア王が編纂したハワイ民話集「The Legends and Myths of Hawaii」の中に掲載されています。「Kahalaopuna, The Princess of Manoa – A Legend of the Valley of Rainbow」というタイトルの物語がそれ。この物語を知らずにはマノアを歌うハワイアン・ソングを踊れません。フラダンサーに必須の知識、カハラオプナのストーリーをまとめてみましょう。
主な登場人物関係図
登場人物紹介
カハラオプナ Kahalaopuna
主人公のプリンセス。超自然的存在の家系に生まれた美女。両親はトゥアヒネ(母)とカハウカニ(父)。マノアの虹。
カウアクアヒネ kauakuahine(またはトゥアヒネ Tuahine)
カハラオプナの母。双子の兄カハウカニと夫婦関係。両親はアカアカ(父)とナレフア(母)。マノアの雨。
カハウカニ Kahaukani
カハラオプナの父。双子の妹トゥアヒネと夫婦関係。両親はアカアカ(父)とナレフア(母)。マノアの風。
アカアカ ʻAkaʻaka
カハラオプナの祖父。トゥアヒネとカハウカニの父。マノアの丘。
カウヒ Kauhi
カイルアのプリンス。カハラオプナの婚約者。
物語の舞台
あらすじ
マノア谷に美しいプリンセスがいました。彼女の名前はカハラオプナ。美し過ぎる彼女の周りにはいつも光がきらめき、頭上には虹が出てしまうほどでした。超自然的存在の家系の子だったのです。
母はこの谷の雨の生まれ代わりカウアクアヒネ、父はこの谷の風の生まれ代わりカハウカニ。この夫婦がじつは血のつながった双子として生まれたことが最初に明かされます。二人はお互いの存在を知らないまま別々に育てられ、後に縁組されたのでした。二人の父はアカアカ、谷の中に突き出した丘の生まれ代わりで、谷の長老として尊敬を集めていました。
美しい女性に育ったカハラオプナは谷の奥の森でひっそり暮らしていました。その美しいプリンセスのことは人々に知られていたものの、その姿を見ることはなかなかできないという存在でした。
カハラオプナには親が縁組した婚約者がいました。山向こうのカイルアのプリンス、カウヒです。そのカウヒが、結婚する日まで会うことが禁じられているまだ見ぬ自分の婚約者プリンセスに会いに行くところから物語が動き出します。
カウヒはカハラオプナに会う前に立ち寄ったワイキキであらぬ噂話を聞きます。カハラオプナが他の男と遊んでいるという嘘を信じて怒り狂ったカウヒは、婚約者に会いに行って殺すことにします。マノアの谷の奥でカハラオプナを初めて見たカウヒは、そのあまりの美しさにその場で手を下すことを躊躇したものの、彼女を山へ連れ出して殴り殺してしまいます。
カウヒに殺され土に埋められたカハラオプナのもとに、一羽のフクロウが飛んできます。カハラオプナの守護神であるフクロウには、命を蘇らせるパワーがあるのでした。フクロウに助けられ生き返ったカハラオプナですが・・・
だいすけの私的解説
カハラオプナの伝説を伝える読み物はいくつかあり、内容にも微妙な違いがあります。ここではハワイ王国第7代国王カラカウアの著書「The Legends and Myths of Hawaii: The Fables and Folk-lore of a Strange People」の中にある短編「Kahalaopuna, The Princess of Manoa – A Legend of the Valley of Rainbow」を題材に要点をまとめます。
一言で言うなら、カハラオプナという名の絶世の美女が嫉妬に狂った婚約者に殺されるお話です。なんとも物騒な内容ですが、そのお話が伝えるのはマノアの谷に虹が頻繁に現れる理由です。ハワイの神話伝説に共通する要素として、女神的なキャラクターの美女には虹がついてまわる、というのがあります。カハラオプナもそういう存在として描かれています。彼女がいるから、マノアの谷に虹は現れていた。そして、彼女は死んだ後も虹になって谷に現れ続けている。谷の雨と風になった両親が、娘を愛しんで虹を作るから。
それにしても男の嫉妬とはなんと醜く恐ろしいものだろう。しかもそれは嘘を信じて芽生えた疑いの心が生み出した嫉妬です。愛しさ余って狂ってしまう、男とは(あるいは人とは)そのように愚かなものだと戒めているのかもしれません。カウヒは執拗にカハラオプナを殺そうとします。彼女の言うことを信じようともしないで。
とはいえ、カハラオプナも簡単には死なない。普通の人ではない超自然的な存在ゆえ、守護神フクロウが助けに来て生き返らせてくれる。この伝説が教えてくれる、ハワイアンが信じるアウマクア(ハワイ語で守護神、先祖神)の存在感も強烈です。カウヒも負けない。生き返ったカハラオプナをまた殺しに行く。これが5回繰り返されます。殺害場所はマノアからどんどん遠ざかり、5度目は50キロも離れたワイアナエの山の中まで移動します。
このあたりのストーリー展開はちょっと理解に苦しむところですが、ここで彼女を救う正義の味方キャラクターが登場します。マハナという青年です。守護神フクロウの力でも完全復活させることができなかった5度目の殺害現場から、マハナはカハラオプナを運びマノアの麓で彼女を介護します。そして完全復活したカハラオプナはマハナと結ばれます。
カウヒはどうなったか。
マハナの訴えによって、カウヒは罪を問われ処刑されることになります。イムの刑です。イムとは豚を丸焼きするときに土を掘って作る天然オーブンのこと。カウヒは彼に嘘をついて嫉妬心をたきつけた男二人とともに、ワイキキの海辺に作られたイムに生き埋めにされます。その夜、骨になった3人が埋められたイムを大きな波が飲み込みます。彼らもまたアウマクアの影響を受けます。嘘つきの二人はマノアの谷を見下ろす山の峰に姿を変え、カウヒはサメに姿を変えてワイキキの海に放たれます。
カウヒ裁きに功労したマノア谷の長老でカハラオプナの祖父アカアカは孫娘に忠告します。決してワイキキの海に入ってはいけない、サメになったカウヒが狙っているから、と。その忠告に従い、カハラオプナはマハナとともに幸せに暮らしましたとさ、とは終わらない。2年の月日が経って、ワイキキにいい波が上がったある日、カハラオプナは波乗りがしたくて海に入ってしまいます。木のボードをパドルして沖に出たカハラオプナを、大きなサメが襲います。サメになったカウヒはカハラオプナの体を食い尽くしてしまい、2度と彼女が生き返れないようにしてしまったのです。
カハラオプナの両親は悲しみのあまり、人間として生きることを捨てて、マノアの谷の奥に姿を消してしまいました。それ以来、マノアの谷に吹く風が山から霧雨を運び、毎日のように谷の中に虹を作り出しています。
これがカハラオプナの伝説の内容です。マノアに暮らすぼくは、この伝説を生み出した自然現象である虹を、15年以上繰り返し体験しています。伝説とはどのようにして生まれるのか? 伝説とはどんな役割を持つのか? そういうことがゆっくりと腑に落ちていくような気がしています。伝説の中のカハラオプナの虹も、カウアクアヒネ(トゥアヒネ)の雨も、カハウカニの風も、アカアカの丘も、ぼくの目の前にあってとても愛おしい存在になっています。(山の中でフクロウに出会ったときは本当にドキドキしました。)
愛おしさは歌の中にも感じることができます。
カハラオプナの伝説をモチーフにした歌
オブライアン・エセルの『Kahalaopuna』
エイミー・ハナイアリイの『Kahalaopuna』
アーロン・サラーの『Lei ana ʻo Mānoa i ka Nani o Nā Pua』
ハパの『Tuahine』
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